「飲食業界は長時間労働できつい」
長年そうしたイメージが定着化していた面もありますが、世の中の働き方改革の流れやコロナ禍を経た今、飲食業界も一昔前と比べて労働環境の改善が進んでいます。
では実際にお休みが増えたり、残業が減ったことによって飲食業界で働く人のモチベーションや仕事に対する向き合い方にどのような変化が生まれたのでしょうか?
今回は都内&埼玉県内で飲食店を複数店舗運営している会社の代表と3名の社員に登場いただき、労働環境改善の経緯や現場の変化などについて聞いてみました。
【お話を伺ったのは・・・】
株式会社ウインドウ
東証スタンダード市場上場企業出資のもと、2011年に外食産業へ参入。
東京都内・埼玉県内にて【カレー食堂「心」】【地魚屋台「浜ちゃん」】を6店舗展開している。
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【インタビューにご協力いただいた方】
※写真左2番目から
●代表取締役社長 臼井大士さん
創業時から店長や本部マネージャーとして活躍後、2017年に代表取締役就任
●片山さん(2011年入社)日本工学院専門学校出身
創業時はアルバイト。社員登用を経て店長としても10年間活躍。
現在は店舗サポート部門にて全店舗を横断的に勤務し、社員指導や店舗改善業務を実施。
●竹内さん(2019年入社)八幡浜工業高校(愛媛県)出身
新卒で3年間地元の工場に勤務してから上京。物販業でのフリーターを経て入社。
現在はカレー食堂「心」さいたま新都心店の店長
●村山さん(2024年入社)埼玉福祉保育医療製菓調理専門学校出身
入社後はカレー食堂「心」西新宿店で勤務し、今年4月よりさいたま新都心店に異動
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多忙時で月2日の休み…。「お店が好き」の一心で労働環境の改善へ
「私が現場で仕事をしていた創業時から2~3年は、かなりブラックな環境でした。通常は月6日休みのはずが月4日休みで、忙しいときは月2日しか休めない時も」と当時を振り返る臼井さん。
それだけ過酷な状況になってしまった背景には、当時上層部が「3年間で100店舗出店」を掲げつつ、それに見合う人材採用や育成をおろそかにしていたことが大きな要因だといいます。
「せっかく社員を採用しても、仕事がきつくてすぐやめてしまう悪循環。さすがに私もきつくて辞めようと思ったこともあります。でも店やスタッフ、お客様が好きだったから、その気持ちだけで踏み留まっていました。会社の業績も大きく悪化していたため経営陣の交代が生じ、退職意向を取り下げ再建に取り組むこととなりました。」(臼井さん)
法律の改正による労働時間の規制が設けられたことを盾に、経営陣に対して労働環境の改善を積極的に働きかけたそうです。
「それまで社員はタイムカードがなかったのですが、タイムカードによる勤怠管理を導入、また社員の休日数も月6日から月8日に増加させました。私が代表に就任した2017年からは社員研修をスタートさせました」(臼井さん)
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2023年には「月10日休み」を実現!残業も年々減少したことで離職率も大幅減へ
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症で店舗運営にも大きな影響があったそうですが、会社が厳しいときでも社員の給料は減らさず、雇用を守りぬくことに注力したそうです。
「せっかくこのお店が好きで仲間になってくれたみんなを辞めさせたくない。そして必ずコロナ禍による影響は薄れて復活すると確信していたので、親会社からのバックアップを受けながら社員の給与と雇用だけは死守しました」と、当時を振り返る臼井さん。
そして本格的にアフターコロナによる回復期に入った2023年から休日を「月10日」に増やしつつ、残業に関しては2年前と比べて月平均20時間以上削減しています。
このように大幅に労働環境が改善されたことによって、社員の離職率も大幅に減少。
「これまで最も離職率が高かった2013年の『60%』から、現在は『11%』と大幅にダウン。2025年に入ってからは一人もスタッフは退職していません」(臼井さん)
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お休みが増えたことで何が変わった?3名の社員がホンネを語る
このように創業当初のころから労働環境は大幅に改善されましたが、実際に現場で働く社員はどう感じているのでしょうか?
まずは創業当初から長く活躍されている片山さんに伺ってみました。
「臼井さんが話していたように、創業から数年はまさにブラックな環境。でも辞めずにこの仕事を続けてきたのは、直属の上司でもあった臼井さんの人柄に惹かれていたことも大きいですね。守ってもらっているという印象が強く残っています。
当時と比べれば今はプライベートの時間も増えたことで、子供や家族との時間がとても充実しています。
それと残業も減ったことで心身ともにゆとりができるようになり、その分部下や若手スタッフに対する指導や面倒を丁寧に見れるように。それも離職率の低下につながっていると思いますね」(片山さん)
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次に入社6年で現在、店長の立場にある竹内さんと入社2年目で竹内さんと同じ店舗で活躍する村山さんにも伺いました。
「お休みが増えたり、残業が減って早上がりができるようになったことで、趣味であるオンラインゲームを楽しむ時間が増えました。ほかのゲーム仲間と時間を合わせやすくなったのがうれしいですね」(竹内さん)
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「就職活動時に当社の待遇条件を見て『ホントに10日も休めるの?うそなんじゃない?』と疑ったほど(笑)。でも入社してしっかり休めることを実感しました。シフトを調整して、5連休を作って実家に帰省されている先輩社員もいらっしゃいます。
ちなみに同じ専門学校の友人の半数以上が、就職して半年以内に激務で退社しているので、私はかなり恵まれた環境にいるんだと実感しました」(村山さん)
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「自分のサービスで多くのお客様に喜んでほしい」という共通の価値観が自然と集まる
労働環境が改善したことで離職率が大幅に低下したわけですが、実はそれ以外にも離職率が下がった要因があるそうです。それが社員・アルバイト含めた全スタッフが共通する「ある価値観」だと臼井さんはいいます。
「『自分の提供するサービスでお客様に喜んでほしい』という思いが今のスタッフには強くあります。逆に『自分だけ稼げればいい』という、自己中心的な考えを持つスタッフは自然といなくなりましたね。
当社では各店舗やスタッフに大きな裁量を与えていて、キャンペーン・新作メニュー・店内POPなども自分たちで企画から実施ができます。仮に失敗しても次に活かせればいいという考えで、スタッフには楽しみながら、前向きに仕事ができる環境を提供しています」(臼井さん)
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臼井さんの話を受けて、ほかの3名も仕事に対する向き合い方を話してもらいました。
「私は接客が好きで、さらに店長になったことでスタッフに仕事を教えることも楽しんでいます。例えば今運営している店舗の近くにさいたまスーパーアリーナがあるため、ライブやコンサート帰りのお客様が多く来店されます。その際、若いお客様にはスピーディに対応したり、逆に年配のお客さまにはお酒をじっくり楽しんでもらえるような雰囲気づくりをスタッフ一同で心掛けながら、みんなで接客サービスの向上に取り組んでいます」(竹内さん)
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「私は複数の店舗を見ているのですが、明らかにどの店舗のスタッフも楽しそうに仕事をしているのを感じます。それだけみんな接客が好きで、同じ価値観を持っているんだと思いました」(片山さん)
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「できるだけ仕事が楽しくできるように髪色や髪型、ネイルなどが自由など、スタッフの縛り付けるルールがあまりありません。それもあってか社員だけじゃなく、アルバイトの定着率も上がっているように感じます」(村山さん)
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代表の臼井さんからは今後も時代のニーズに合わせて、労働環境や社内ルールなどのさらなる改善に対してフレキシブルに対応していくとのこと。
接客を心から楽しめる仲間を今後も増やして、無理のないペースで新規出店を続けていくそうです。