日本料理は、美意識や伝統、季節感をとても大切にする料理です。
味付けや盛り付けだけでなく、器やしつらえにも心を尽くします。
中でも料理と密接な関係にあるのが、「器」の存在。
今回は、日本料理と器の関係について紐解いてみましょう。
後半では実際の会席料理を例にとって紹介していきます。
日本料理と器の関係
・季節感を表現する
四季に恵まれた日本では、季節感を大切にする文化が根付いています。料理においては旬の食材を用いることで季節を取り入れ、盛り付けや器にも四季折々の変化を反映。春は桜、秋は紅葉など、その時期の季節感を引き立てる器が用いられます。
・調和の美を表現する
夏の冷たいお料理は涼やかなガラスの器に、冬の温かい炊き合わせはぬくもりを感じる土焼きの器に、というように、料理に適した形状・色の器を用いることで調和が生まれ、その料理のもつ世界観を一層際立たせることができます。
器の素材と種類
「陶器」「磁器」「漆器」など、日本各地で土地の資源や伝統に根付いた器が作られており、素材や作風などの趣が料理を一層引き立たせます。
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陶器
通称「土もの」と呼ばれ、粘土を主とする素地で成形します。
唐津焼、美濃焼、萩焼などが代表です。
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磁器通称「石もの」と呼ばれ、白色粘土に長石、珪石、陶石の粉末を加えた素地を高温で焼きます。
有田焼、九谷焼、波佐見焼などが代表です。
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漆器
漆科の樹木からとれる樹液を木地に施した美しく堅牢な器。
石川県の輪島塗、山中塗、岐阜県の飛騨春慶などが有名です。
・その他
江戸切子、薩摩切子に代表されるようなガラス器、銀、銅、錫、鉄などの金属を用いた器などがあります。
季節ごとの料理と器を紹介
ここからは実際の日本料理において、器がどのように用いられているのかを紹介します。今回は、うなぎ料理と日本料理の老舗「株式会社東京竹葉亭」の津田兼太郎社長にお話を伺いました。(以下、『 』内は津田社長談)
【東京竹葉亭】
江戸末期創業の老舗うなぎ・日本料理店。昭和初期に財界人の招致で関西へ出店し、現在は関西、中部に5店舗を構える。北大路魯山人と深い交流のあった竹葉亭の流れを汲み、貴重な器を多数所蔵。うなぎはもとより、四季折々の料理と器を楽しみに訪れる客も多い。
『器には一年を通して使えるものと、時期や目的を選ぶものがあります。たとえば、桜模様は春、赤や黄色のもみじ模様は秋に用いるというのはイメージがつきやすいのではないでしょうか。また、鯛の器はお祝い事でよく使う器なので、法事などの料理には用いません。季節とシチュエーションに合わせて器を変えるのは、日本ならではの文化ですね。』
『日本の伝統行事は季節と密接な関係にあるものが多いため、行事由来の器を用いて季節感を表現することもあります。2月なら節分。東京竹葉亭では、豆まきにちなんで豆を桝に盛りつけたり、福を招き入れる“おたふく”の器を用いたりします』
『3月は桃の節句があるので、お雛様や菱餅型の器。5月は端午の節句に合わせて、兜や矢羽根の器を用いることが多いです。袴膳と言って、袴の形をしたお膳を使うこともありますね。料理を盛り付ける器だけでなく、お膳なども重要な役割を果たしています』
ちなみに3月の桃の節句、5月の端午の節句は、人日の節句(1月7日)、七夕(7月7日)、重陽の節句(9月9日)と合わせて「五節句」と呼ばれ、日本の四季を彩る代表的な節句です。
他にも一年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにこれらを6つに分ける二十四節気(にじゅうしせっき)の知識などは、知らないと料理全体の調和を損ねてしまうことも。調理の技術だけでは完成しないのが、日本料理の奥深さとも言えるでしょう。
器選びのスキルはまず触れること
季節や文化を取り入れるだけでなく、器は料理の印象を大きく左右するもの。だからこそ、“どの料理に、どの器を用いるか”という目利きの力は、料理人にとって不可欠なスキルです。
津田社長いわく「知識やセンスを磨くためには、普段からいろんな器に触れることが一番の近道」とのこと。実際に東京竹葉亭で使われている器の一部を見せていただきました。
「
奈良の赤膚焼き。この器は窯元の奈良にちなんで鹿の絵柄が入っています」
「こちらの器には、桜と紅葉両方が描かれています。桜を“雲”に、紅葉を“錦”に見立てたことから
“雲錦模様”と呼ばれており、春や秋に使うことができます」
「
佐賀の鍋島焼は、鍋島藩が献上品として特別に作らせた高級磁器が由来。非常に精巧で、高台に櫛歯文様が描かれているのが特徴です」
東京竹葉亭の会席料理では、毎月献立と器を変えているとのこと。その度に、料理長やベテランの先輩方が、若手の料理人さんに器の知識を伝授しているそうです。
料理の奥深さを理解するためには、器と日本料理の密接な関係を深く学ぶことが重要です。
伝統的な日本料理では、料理が提供される器や盛り付け方が、その料理の趣や季節感を引き立てる役割を果たしています。季節の食材を活かすために選ばれる器や、食器の形状が料理の見た目や味わいに与える影響など、細部にわたって器が料理に与える影響を理解することで、より一層深い料理の世界に足を踏み入れることができるでしょう。
器と日本料理の関わりを掘り下げ、その美意識や技術を身につけることで、日本料理を志す学生の皆様への将来の一助になるかと思います。
日本古来の文化や伝統に至るまで、広い見識が求められる日本料理。一朝一夕で身につくスキルではありませんが、その奥深さこそが魅力であり、面白さなのだと思います。「料理の知見が深まるほど、器の知識の深まる」とはよく聞くところ。外食の際、器に少し目を留めてみるところから、慣れ親しんでみてはいかがでしょうか?