ハワイの伝統を受け継ぎ、100年以上の歴史を誇るリゾート「ハレクラニ」。そのブランドの2軒目として誕生したのが「ハレクラニ沖縄」です。この素晴らしいホテルの創業にあたり、初代総支配人(現三井不動産リゾートマネジメント株式会社 特別顧問)として迎えられたのが、ホスピタリティ業界で約40年のキャリアを持つ、吉江潤氏です。これまで、数々のラグジュアリーホテルで培った経験と実績を活かし、吉江氏はどのようにしてハレクラニ沖縄を作り上げてきたのでしょうか?今回は、吉江氏の想いや苦労、その乗り越え方、そして学生たちに向けたメッセージをお伺いしました。
ハレクラニ沖縄 初代総支配人 吉江潤(よしえじゅん)氏
東京都生まれ。1983年、上智大学比較文化学部(現・国際教養学部)を卒業後、プリンスホテルに入社。ホテル業界においては、長年のキャリアを誇り、数々の外資系有名ホテルの開業に携わってきた。
1994年にはパーク ハイアット東京にてセールスマネージャーおよび営業部長を歴任。その後、グランド ハイアット東京のマーケティング部長を務め、2004年にはマンダリン オリエンタル東京でセールス&マーケティング部長として活躍。
2006年、ザ・リッツ・カールトン東京の副総支配人に就任。その後、2011年にはザ・リッツ・カールトン沖縄の総支配人に就任し、6年間にわたり沖縄のホスピタリティ業界を牽引。沖縄の地域文化にも精通し、リゾート業界の発展に貢献。
2017年、ハワイと沖縄の美意識が融合する唯一無二のリゾート「ハレクラニ沖縄」の総支配人に就任。2019年の開業と共に、ラグジュアリーマーケットのさらなる発展に尽力している。
開業にあたって、重視したのは「人で差別化すること」
ハレクラニ沖縄の開業にあたって、私が一番重視したのは「人で差別化すること」でした。多くのホテルが素晴らしいロケーションや建物を持っていますが、それだけではお客様が何度も足を運んでくれるわけではありません。お客様が「また来たい」と思う理由、それはスタッフ一人ひとりの心のこもった接客から生まれるのです。
私はこれまで、外資系の高級ホテルで数々のオープニングに関わり、施設やブランドの重要性を理解してきました。それを超える価値を提供するためにも、ハレクラニ沖縄ではそれ以上に「人」に焦点を当てるべきだと感じたのです。
そのためにも、スタッフ全員がやりがいを感じ、楽しく働ける環境を作りたいと思いました。なぜなら、スタッフ自身がハッピーでなければ、お客様を本当にハッピーにすることはできないからです。私がこのホテルで一番大切にしたいのは、スタッフが心から楽しみ、誇りを持って働ける環境づくりです。そんな環境があってこそ、お客様に最高のサービスを提供できると信じています。
そして、この考え方をオーナーである三井不動産が理解し、積極的に協力してくれました。この共同の思いが、ハレクラニ沖縄を唯一無二のホテルにするための第一歩となったのです。
「いい人」が集まるホテルを作る。理想のチームを築くための採用哲学
理想のホテルを作るためには、まず「どんな人たちが働いているか」が非常に重要です。なぜなら、職場は毎日顔を合わせる場所だからです。私がこれまでホテル業界で経験してきた中で、一番大きなストレスは「悪い人間関係」だと感じています。どんなに仕事がうまくいっても、人間関係がうまくいかなければ、心から楽しむことはできません。
そこで、ハレクラニ沖縄をオープンする際に、私は350人ものスタッフを採用するにあたって「いい人」を募集することに決めました。私が考える「いい人」とは、全ての人に対して思いやりを持って行動でき、発言できる人です。そして、何よりチームワークを大切にし、助け合える人。この「いい人」が集まることで、スタッフ間の協力や支え合いを生み出し、結果としてお客様に最高のサービスを提供できると信じています。
この基準で選ばれた新卒約100名、中途約260名のスタッフが集まり、ハレクラニ沖縄はオープンしました。今でも、この「いい人」を採用するという基準は変わらず、大事にし続けています。
苦労を乗り越え、今のハレクラニ沖縄へ。逆境から学んだ成功の秘訣
新しいホテルの開業には必ず予期せぬことが起こります。ハレクラニ沖縄も例外ではありませんでした。オープン直後の数ヶ月間は、厳しい状況が続きました。口コミ評価は厳しく、クレームも多く、私自身、お客様にお詫びに行くことが何度もありました。開業したてのホテルでは、どうしてもお客様の期待に応えきれないことがあり、正直なところ、心が折れそうになることもありました。
そんな中で私が大事にしたのは「4つのミッションと15項目の行動基盤」を浸透させることでした。これらは、スタッフ全員が共有すべき指針であり、私たちが目指すべき方向性を示すものです。4つのミッションとは、「すべての人へのパーソナルな思いやり」「卓越したサービスとプロダクト」「地域社会との調和」「HAVE FUN」。これらに基づいた15項目の行動基準を実践すれば、必ずお客様の評価は向上するはずだと信じていました。
そのために、毎日各職場でブリーフィングを行い、そこで「4つのミッションと15項目の行動基盤」の中から項目を決めて振り返りを実施。単に唱和するだけでなく、自分ごととして考えることで、スタッフ一人ひとりに深く浸透させていったのです。
未経験者の成長も相まって、数ヶ月後には口コミがポジティブに変わり、スタッフに関する高評価のコメントが増えてきました。そして、リピーターが増え、売上も順調に右肩上がりに。2022年には、「フォーブス・トラベルガイド2022」の「ホテル部門」で、沖縄初、日本のリゾートホテル初の5つ星を獲得することもできました。
「人」を大切にしたい。ハレクラニ沖縄の初代総支配人が語る「Ohana」精神とこだわりの食
私がこれまで最も大切にしてきたのは「人」です。ホテル業界で働く中で、何よりも人間関係を重視してきました。実際に、私が大切にしてきた「人を思いやる心」を周囲が理解し、評価してくれたからこそ、ハレクラニ沖縄の総支配人としての役割を任せてもらえたのだと思っています。
そして、ハレクラニ沖縄で最も大切にしているのは「Ohana(オハナ)」という精神です。ハワイ語で「家族」を意味するOhanaは、ハワイのハレクラニから受け継いだ大切な価値観です。この精神を基に、スタッフ同士は家族のように支え合い、どんな時でも温かく接しています。そして、お客様にも家族のように思いやりを持って対応しています。お客様に接する際、常に「目の前のお客様があなたの家族だったら、どんな言葉をかけ、どんなサービスを提供するだろう?」という視点を忘れずに、大切にしています。
さらに、私たちの「食」へのこだわりも特別なものです。美味しさはもちろん、食べる人が安心して楽しめることが最も重要です。すべての料理は手作りにこだわり、厳選した食材を使っています。このような食の体験が、ホテルの魅力をさらに引き立て、毎回訪れるお客様に心温まる思い出を提供しています。
ホテル・レストラン業界を目指すみなさまへのメッセージ
ホテル業界で働くということは、ただの仕事ではなく、お客様に喜びを与え、感動を作り出す仕事です。その対価としてお給料をいただくわけですが、何よりもやりがいを感じられる職業だと思っています。
そして、ホテル選びの際には、ブランドや名前だけに注目するのではなく、そのホテルを支えている経営会社にも注目してほしいと思います。ハレクラニ沖縄のオーナーである三井不動産は「人の三井」と呼ばれるほど、人を大切にする企業です。だからこそ、私たちのホテルではスタッフ一人ひとりが働きやすく、成長できる環境が整えられています。それが、お客様に最高のサービスを提供できる理由でもあります。
調理師を目指す皆さんにとって、レストラン業界は選択肢が豊富ですが、ホテルのレストランで働くことは、さまざまな料理を学び、多岐にわたる経験を積む素晴らしいチャンスです。種類の異なるレストランが集まる環境は、成長の機会が豊富に広がっています。もし、「いい人」と一緒に伸び伸びと成長し、仲間と共に大きな目標を達成したいと思う方がいれば、ぜひハレクラニ沖縄でお待ちしています。