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2025.05.26 1
自分のお店を持ちたいと思ったとき、お客様に喜ばれる店づくりに欠かせないのが「お酒の知識」。特に日本酒は、味わいの幅も広く、料理との組み合わせ次第でその魅力が何倍にもふくらみます。  今回お話を伺ったのは、大阪市内に複数の飲食店を展開し、日本酒イベントへの出店や酒蔵との共同開発も行うオーナーシェフ。自らも利き酒師の資格を持ち、全国の酒蔵を訪ね歩いてきた経験から、学生たちに伝えたい「お酒の学び」を語っていただきました。  [IMG_0744-8.jpg]  株式会社弥栄フードサービス 代表取締役社長 酒井 貴史 氏   “お米からつくられる日本の伝統的なお酒「日本酒」とは?” 日本酒は、お米を麹菌の力で糖に変え、酵母でアルコール発酵させる日本の伝統的なお酒です。ワインやビールと異なり、糖化と発酵を同時に行う「並行複発酵」という独自の製法が特徴。主原料は「米」と「水」、そして「麹(こうじ)」で、使用する酒米の種類や精米歩合、水の硬軟、発酵温度などによって風味は大きく変化します。同じ原料でもまったく異なる個性が現れるのです。   料理との相性も抜群で、特に和食とのペアリングは、素材の味を引き立て、旨味を増幅する効果もあると言われています。また、冷酒と熱燗では全く違う趣があることから、和食に限らずあらゆるジャンルの料理に合わせることができます。 [original (22).jpg]     “知るほどに奥深い、日本酒の魅力” 日本酒の奥深さは、温度によって香りや味わいが大きく変化するところにあります。適温に達すると、まるで“花が開く”ように香りが立ち、旨味がやわらかく広がります。お酒ごとに異なる“その一瞬”を見極めることは、料理人にとって大切な技術のひとつ。まさに日本酒は、“温度で表情を変える生きた酒”といえるでしょう。   ちなみに、飲食の場でよく使われる「看板娘」という言葉は、もともと日本酒の温度を絶妙に調整し、お客様に最適な一杯を提供する「お燗番(おかんばん)」という役割に由来するといわれています。  [IMG_0822-32.jpg]   “  “なんとなく”では通用しない? 独立に日本酒の知識が必要な理由” 私は自分で飲食店をやる以上、お酒の知識はマストだと思っています。ただ単に、店で扱うから、ではありません。カウンターでお客様と接するお店では、「この料理にはどんなお酒が合いますか?」と頻繁に聞かれますし、料理とお酒の相性を理解することでペアリングの提案など、料理の価値をさらに高めることができるからです。   実際に私たちの会社では、蔵元と一緒にイベントに出店したり、コース料理に合わせてオリジナルの日本酒を造ってもらったりすることで、他社にはない価値をお客様に提供しています。そのような取り組みができるのも、日本酒の世界を深く学び、造り手と信頼関係を築いてきたからこそ。まずは一杯から興味を持ち、知ろうとする姿勢が、自分の道を大きく広げるきっかけになると思います。  [IMG_2557-71.jpg] “良いお酒に出会うには、蔵元に会いに行くこと” 日本酒を勉強したいと思ったら、まずは蔵元に足を運ぶのが一番です。私自身、初めて酒蔵を見学したとき、“日本酒って、ここまで緻密に造られているのか”と驚きました。何分かけて洗う、どれだけ水に浸す—— その一つ一つが計算されていて、少しでも狂うと発酵に影響するのです。醸造の現場を見てからは、日本酒の一杯の重みが変わりました。同時に、良い日本酒は、“良い造り手”によって生まれることを実感。スタッフにも、良い酒に出会いたいなら、まず蔵元に会いに行けと伝えていますし、店でも仕入れる日本酒は業者頼みではなく、ご縁のあった蔵元さんのお酒を扱うようにしています。    “日本酒の今とこれから── 世界に広がる可能性” 近年の動向として、国内では昔ほど日本酒が飲まれなくなっている一方で、海外では日本酒を扱うレストランが増えて注目を集めています。国内でも、大きなメーカーのお酒の売り上げは減っていますが、小さな酒蔵がつくる個性豊かな日本酒にはファンが増えていて、クラフト酒として人気が出ています。日本酒の可能性は、今後もまだまだ広がっていくというのが私の見解です。    “学生のみなさんへのメッセージ” 日本酒の世界は、味や香りだけでなく、造り手の想いや土地の文化まで含めた奥深さがあります。実際に蔵を訪れ、その場で話を聞くことで見えてくる景色は多く、そのような体験は料理人としての感性を磨き、引き出しを増やすことにつながります。すぐに日本酒を扱う場面がなくても、「知っていること」が誰かとの会話を生み、チャンスにつながることもあります。難しく考えすぎず、まずは一杯、関心を持つことから始めてみてください。興味が湧いた方は、いつでも話を聞きに来てくださいね。 [IMG_0806-28.jpg]
 
2025.05.26 1
「将来は独立したい。でも、ゼロから店をつくるのは不安――」  「多店舗展開に踏み切るタイミングは?」 将来自分の店を持ちたいと考えている皆さんの中には、そんな気持ちを抱えている方も多いのではないでしょうか。   今回は、大阪市内で5店舗を展開する飲食店オーナーに、独立や多店舗経営を進めるうえでのヒントについてお話を伺いました。    【株式会社弥栄フードサービス】  代表取締役社長 酒井貴史 氏 和食の星付き店などで修業を重ね、2011年に独立。現在は業態の異なる5店舗を運営し、これまでに同社から8名が独立。現在は「店舗譲渡型独立(のれん分け)」の仕組みづくりも計画しています。 [IMG_0724-2.jpg]   “アンテナを張り、チャンスをつかんで独立” 私が独立を決意したのは、調理専門学校の先生に「良い居抜き物件がある」と紹介していただいたのがきっかけでした。特別な準備をしていたわけではありませんが、話をもらったときに「やってみようか」と思えたのは、良い情報があればキャッチできるようにと、普段からアンテナを張っていたからだと思います。   独立当初は、“フランチャイズ展開を目指す会社にしたい”と考えていました。でも実際に自分で料理をして、お客様の「美味しい」という声を直接聞けるのが嬉しくて、自然と「お客様との距離感」を大切にする店を作りたいと思うようになりました。 [IMG_2544-65.jpg]     “多店舗展開のきっかけは「人」。そして今は「場所」が鍵に” 出店を考えるとき、人材と収益の見通しは欠かせない要素です。実際、これまでの展開を振り返ってみると、はじめの動機は「人」がいたから。信頼できる仲間や後輩が「一緒にやりたい」と集ってくれて、「それなら新しい店をつくろう」という流れで店舗が増えていきました。   その後、経験を積むにつれて強く意識するようになったのは、「物件の力」です。どれだけ料理に自信があっても、人が集まらなければ意味がありません。今は、他の要件に優先して、良い物件との出会いがあればまず動く、というスタンスをとっています。「この場所なら、どんな業態が一番活きるか」を考え、形にしていくので、物件との出会いが新しい挑戦のきっかけにもなっています。  [original (4).jpeg] 人材も立地も、どちらも大切。何を軸に判断するかは、その時々の状況によって変わってくるのだと思います。そうした柔軟な視点を持てるかどうかが、多店舗展開の成功を左右するのではないでしょうか。    “独立後は要注意!「とにかく料理が好き」の落とし穴” 独立してから感じたことのひとつに、「もっと早くから情報を集めておけばよかったかな」という思いがあります。料理が好きでこの道に入ったので、当時はとにかく目の前の調理やお店づくりに夢中でした。でも今振り返ると、経営や組織づくりの知識、異業種の仕組み、他のやり方に目を向けることも、同じくらい大切だったと感じています。   たとえば、フランチャイズに一度加盟して、その仕組みやノウハウを学ぶという選択肢もあったのではないかと思っています。経営という広い視点で見れば、自分の中にある世界だけで完結せず、もっと外へ意識を向けることで、経営の全体像をより早く、深く理解できたかもしれません。 [IMG_2476-18.jpg] だからこそ、料理人として独立を目指す皆さんには、今いる環境にとどまらず、意識的に視野を広げ、将来の選択肢を増やす努力をしてほしいと思います。  「ゼロから」だけが独立の形ではない。多店舗経営にも、“人”や“場所”との出会いから始まるリアルな道筋がある――。それが私の実感です。     “学生のみなさんへのメッセージ” 私自身、料理が好きで独立起業したからこそ、同じ志を持つ若い人たちを応援したいという気持ちは、人一倍強いと自負しています。   当社では、仕入れや店舗運営など、各店舗にかなりの裁量を与えており、一人一人が“自分の店”という意識を持って働ける環境づくりを大切にしています。これまでに当社から独立開業した社員は8人。今後は「店舗譲渡型独立(のれん分け)」の仕組みを整え、ゼロからの開業に比べてリスクを抑えながら、自分の店を持てる選択肢も用意していく予定です。 [IMG_0753-10.jpg]   もちろん、大切な仲間が巣立っていくのは、正直なところ少し寂しさもあります。でも、それ以上に、「ここで経験を積んだから一歩踏み出せた」と言ってもらえることが、何よりもうれしい。当社が、皆さんにとって将来につながる「学びと挑戦の場」になれたら、こんなに嬉しいことはありません。興味を持っていただけたら、ぜひ一度、現場の空気を感じに来てください。