自分のお店を持ちたいと思ったとき、お客様に喜ばれる店づくりに欠かせないのが「お酒の知識」。特に日本酒は、味わいの幅も広く、料理との組み合わせ次第でその魅力が何倍にもふくらみます。
今回お話を伺ったのは、大阪市内に複数の飲食店を展開し、日本酒イベントへの出店や酒蔵との共同開発も行うオーナーシェフ。自らも利き酒師の資格を持ち、全国の酒蔵を訪ね歩いてきた経験から、学生たちに伝えたい「お酒の学び」を語っていただきました。
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株式会社弥栄フードサービス 代表取締役社長 酒井 貴史 氏
“お米からつくられる日本の伝統的なお酒「日本酒」とは?”
日本酒は、お米を麹菌の力で糖に変え、酵母でアルコール発酵させる日本の伝統的なお酒です。ワインやビールと異なり、糖化と発酵を同時に行う「並行複発酵」という独自の製法が特徴。主原料は「米」と「水」、そして「麹(こうじ)」で、使用する酒米の種類や精米歩合、水の硬軟、発酵温度などによって風味は大きく変化します。同じ原料でもまったく異なる個性が現れるのです。
料理との相性も抜群で、特に和食とのペアリングは、素材の味を引き立て、旨味を増幅する効果もあると言われています。また、冷酒と熱燗では全く違う趣があることから、和食に限らずあらゆるジャンルの料理に合わせることができます。
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“知るほどに奥深い、日本酒の魅力”
日本酒の奥深さは、温度によって香りや味わいが大きく変化するところにあります。適温に達すると、まるで“花が開く”ように香りが立ち、旨味がやわらかく広がります。お酒ごとに異なる“その一瞬”を見極めることは、料理人にとって大切な技術のひとつ。まさに日本酒は、“温度で表情を変える生きた酒”といえるでしょう。
ちなみに、飲食の場でよく使われる「看板娘」という言葉は、もともと日本酒の温度を絶妙に調整し、お客様に最適な一杯を提供する「お燗番(おかんばん)」という役割に由来するといわれています。
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“ “なんとなく”では通用しない? 独立に日本酒の知識が必要な理由”
私は自分で飲食店をやる以上、お酒の知識はマストだと思っています。ただ単に、店で扱うから、ではありません。カウンターでお客様と接するお店では、「この料理にはどんなお酒が合いますか?」と頻繁に聞かれますし、料理とお酒の相性を理解することでペアリングの提案など、料理の価値をさらに高めることができるからです。
実際に私たちの会社では、蔵元と一緒にイベントに出店したり、コース料理に合わせてオリジナルの日本酒を造ってもらったりすることで、他社にはない価値をお客様に提供しています。そのような取り組みができるのも、日本酒の世界を深く学び、造り手と信頼関係を築いてきたからこそ。まずは一杯から興味を持ち、知ろうとする姿勢が、自分の道を大きく広げるきっかけになると思います。
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“良いお酒に出会うには、蔵元に会いに行くこと”
日本酒を勉強したいと思ったら、まずは蔵元に足を運ぶのが一番です。私自身、初めて酒蔵を見学したとき、“日本酒って、ここまで緻密に造られているのか”と驚きました。何分かけて洗う、どれだけ水に浸す—— その一つ一つが計算されていて、少しでも狂うと発酵に影響するのです。醸造の現場を見てからは、日本酒の一杯の重みが変わりました。同時に、良い日本酒は、“良い造り手”によって生まれることを実感。スタッフにも、良い酒に出会いたいなら、まず蔵元に会いに行けと伝えていますし、店でも仕入れる日本酒は業者頼みではなく、ご縁のあった蔵元さんのお酒を扱うようにしています。
“日本酒の今とこれから── 世界に広がる可能性”
近年の動向として、国内では昔ほど日本酒が飲まれなくなっている一方で、海外では日本酒を扱うレストランが増えて注目を集めています。国内でも、大きなメーカーのお酒の売り上げは減っていますが、小さな酒蔵がつくる個性豊かな日本酒にはファンが増えていて、クラフト酒として人気が出ています。日本酒の可能性は、今後もまだまだ広がっていくというのが私の見解です。
“学生のみなさんへのメッセージ”
日本酒の世界は、味や香りだけでなく、造り手の想いや土地の文化まで含めた奥深さがあります。実際に蔵を訪れ、その場で話を聞くことで見えてくる景色は多く、そのような体験は料理人としての感性を磨き、引き出しを増やすことにつながります。すぐに日本酒を扱う場面がなくても、「知っていること」が誰かとの会話を生み、チャンスにつながることもあります。難しく考えすぎず、まずは一杯、関心を持つことから始めてみてください。興味が湧いた方は、いつでも話を聞きに来てくださいね。
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