みなさんは、「料理屋」と聞いて、何をイメージされますか。
「格式高い雰囲気」「敷居が高い」「政財界に通じている」「接待に利用」「伝統的な数寄屋造り」「四季折々の食材を活かした正統な料理」…といった印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
もちろんそういった側面もありますが、その一方で冠婚葬祭や家族のお祝い事などに利用する場所として、地域の方々の生活に広く溶け込み、支えてきたという歴史があります。
[DSC_2455.jpg]
“昭和12年創業、京都を代表する料理屋”
『京料理 萬重』は、京都を代表する料理屋のひとつです。京都の文化や経済を支えてきた京都・西陣の地で舌の肥えた旦那衆たちに育てられ、料理の味はもちろんのこと、日本の文化や歴史も体感できる場所として、地域のお客様に長年親しまれています。「家族のお祝い事は萬重で」と3世代にわたり通って来てくださるお客様も少なくありません。
[DSC_2462.jpg]
2022年に「京料理」が国の登録無形文化財に登録され、日本を訪れる外国人観光客が年々増加する中、『京料理 萬重』の個人顧客の比率は、地元のお客様が7割5分と圧倒的に多く、残り2割は県外のお客様。外国人観光客は5分にも満たない状況です。もちろん県外のお客様、外国人観光客もお越しいただきたいですが、これは『京料理 萬重』が地域の方々の生活に息づいている証でもあります。
“『京料理 萬重』の主人に受け継がれる「目利き」の技術”
地元に愛されるお店づくりの一環として創業当初から大切にしていることは、「味のふるさとづくり」です。彩り、形、配置など、和食における見た目の美しさは大切な要素ですが、視覚的な美しさにばかり気を取られ、肝心の「味」が後回しにされてしまっては、せっかくの美味しい和食が台無しです。
[DSC_2408.jpg]
私たちは、食材がもつ自然な風味や質感を最大限に活かすため、また本物思考でありながら、何度も通っていただけるような「親しみやすさ」を感じてもらえる料理を提供するため、素材の滋味を生かした旬の食材を使って、あまり奇をてらわない、季節の移り変わりを感じる料理を提供しています。
[DSC_2289.jpg]
それには食材を見極める「目利き」の技術が必要。毎朝、主人である会長と一緒に京都市中央卸売場に出向き、自分たちの目で確かめ、納得したものだけを仕入れています。『京料理 萬重』では、重要な「目利き」の役割を担うのは主人と決まっており、私も幼い頃から市場に通って、新鮮で美味しい食材の見分け方やその産地、旬の食材や料理方法などを学びました。仕入れがない時も市場に行って、食材に関わる情報を収集することは習慣のひとつです。
“日本の食文化を継承し、未来につなぐ役割を担う”
2013年に「日本食の伝統的な食事スタイル」や「自然を大切にする精神」などが評価され、日本独自の食文化「和食」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。しかし、日本のライフスタイルの変化により、食の欧米化や人々の食生活が大きく変化。それにより日本が世界に誇る「一汁三菜」を基本とした食生活が崩れつつあります。これは、日本の食文化を継承する私たちにとっても由々しき事態。日本の食文化を国内外に広く発信し、理解を深め、次世代に伝えるための教育や活動を推進していく必要があります。
[DSC_2337.jpg]
“全国の小中学生に京都の食文化や歴史を伝える”
みなさんは、「竈金(かまどきん)」という言葉をご存知でしょうか?竈金とは、明治時代に京都の「番組小学校(地域性小学校)」の運営資金として、各戸から集められた資金のことをいいます。各家庭、子供がいる・いないに関わらず資金を出し合い、60以上の番組小学校が開校されましたが、現在もその精神が受け継がれ、京都には「地域ぐるみで子供たちを育てる」という文化が息づいています。
私たちがこの精神を受け継ぎ、地域社会の一員として始めたのが、全国の小中学生に京都の食文化や歴史を伝える食育です。これは私自身が対外的に行なっている活動のひとつですが、2004年の「日本料理アカデミー」設立と同時に参加し、約20年にわたり続けています。
“技術力を鍛える前に人間力を育む”
[DSC_2430.jpg]
私が人材育成で最も重視していることは、社員の主体性を育むことです。主体性とは自らの考えや判断に基づき、責任をもって行動することを言いますが、主体性のある人の共通点として挙げられるのは、「自身で考え行動する」「自身が成長するための努力を惜しまない」「常に高みを目指して挑戦し続けられる」などです。
主体性のある人はつまずくことがあっても、自身の行動をかえりみて次の行動に活かすことができます。地道な努力が求められる調理人の世界においては、欠くことのできない大切な要素。調理技術の継承は料理長やベテラン社員が先頭に立って行なってくれていますが、個々の主体性を高め、自然に学び続ける環境を整えることは、私の役割であると思っています。
[DSC_2390-Edit.jpg]
京料理 萬重 代表取締役社長 田村 圭吾
文化庁 文化交流使/京料理技術保存会 会員/NPO日本料理アカデミー 地域食育委員長/京都市教育委員会 日本料理に学ぶ食育カリキュラム推進会議委員/一般社団法人京都食文化教会 運営委員/野菜ソムリエ京都 顧問/京都料理芽生会 相談役