ロイヤルパークホテル(東京・日本橋)の松山昌樹総料理長に聞く!料理人の誇りと若者たちへのメッセージ

2024.03.15 27
平成元年6月に開業したロイヤルパークホテル。その第1期生として入社され、これまで料理一筋に歩んでこられた総料理長 松山昌樹氏。
今回は、その松山総料理長にお話を伺い、料理人としての半生を振り返っていただく中で、これまでの軌跡や料理人への想い、さらには、若者たちへのメッセージなど語っていただきました。

ロイヤルパークホテル(東京・日本橋) 総料理長
松山昌樹(まつやま まさき)氏
東京都渋谷区出身。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、1988年に「ロイヤルパークホテル」へ入社。2001年に渡米し、在米国 日本国大使公邸の料理長に就任。
ワシントンD.C.に約6年間在住。2007年「ザ ロイヤルパークホテルアイコニック東京汐留」の料理長として帰国。
その後、三菱開東閣(現 開東閣)の料理長を経て、2019年に「ロイヤルパークホテル」総料理長に就任。
2022年に「ロイヤルパークホテルズアンドゾーツ」執行役員 グループ統括副総料理長となり、同時に「ロイヤルパークホテル(東京・日本橋)」の総料理長 兼 調理部長として、現在も活躍中。
 
2001年ACADEMIE CULINAIRE DE FRANCE(フランス料理アカデミー)主催「世界大会 Le Trophée International de Cuisine et Pâtisserie 2001」 総合優勝など、
数々の賞を受賞。さらに、1998年カナダ政府 農務大臣表彰、2017年厚生労働大臣表彰(業務功労)などを受章。
そして、2022年フランス共和国農事功労章 シュヴァリエ、2023年東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞を受賞。


本場のフランス料理に魅了され料理の世界へ




私は画家である父の下に生まれ育ちました。幼い頃、父のアトリエがあったフランスを訪れ、小さなカフェで食べた本場のフランス料理に感動したのを覚えています。さらに、京王プラザホテルのレストラン「樹林」にもよく連れて行ってもらい、料理に興味を持つようになりました。
 
15歳から一人暮らしを始め、アルバイトに励む高校時代。そして、一旦は別の業界に就職したものの、やはり料理への想いが消えませんでした。そこで、調理の専門学校へ行こうと決断し、大阪の辻調理師専門学校へ入学。1年間、料理のイロハを学びました。
就職の時期に地元東京で開業するホテルの募集を知り、すぐに東京へ戻りました。開業準備室を訪れ、そこで自分の想いを伝えたところ、面接を受けることができたのです。その後、採用をいただき入社することになったホテルが「ロイヤルパークホテル」だったのです。


アメリカでの経験が、これまでの意識を変えた




私は、2001年から約6年間ワシントンD.C.へ赴任し、在米国 日本国大使公邸の料理長を務めました。
それまでの私は、「できなければ、自分がやるから手を出すな」というスタンスで、力を合わせて仕事を進める意識が希薄でした。
 
しかし、アメリカに行くと、大使夫妻のプライベートの食事から、世界のVIPをお招きする会食、時には1,000人を超えるレセプションを全て自分でやらなければならなかったのです。
 
この経験で、仲間と一緒に仕事をするありがたさ、チームや組織としてやっていく大切さを痛感し、仕事への向き合い方が変わりました。


大切にしていることは「料理を楽しむ時間、空間全て楽しんでほしい」




サービススタッフも含め、料理のプロフェッショナルである私たちは、お客様に料理をおいしく召し上がっていただく事は当たり前です。そのお食事の時間や空間までも楽しんでほしいという想いを込めて最高のおもてなしをします。だからこそ、お客様の目の前に料理を提供する瞬間まで、何があっても一切妥協はしません。
 
私はこの想いを持ち続けて料理と向き合ってきています。 


業界の課題は、人手不足と待遇の改善




フランスの料理人は、職人でなく芸術家やアーティストに近い存在とされています。
人手不足を解決するには、まずは料理人を魅力ある仕事へと昇華させ、未来の若者が憧れる職業にしたいと考えています。
 
また、ホテルに限らず飲食業界全体の課題とされていますが、金銭面だけでなく休暇などワークライフバランスの取り組みを推進し、業務の効率化など職場環境の向上を構築することで充実感を与えることが必要です。
 
これらを業界全体に広め、底上げを図りたいと考えています。


個々の資質を見極め、それぞれの目標を尊重。教育には万全の準備で臨む




人財育成において重視していることは、多様性を尊重することを大切にしながら「区別すること」です。社員もそれぞれに個性があり、他人と違うことは当たり前です。総料理長やシェフを目指したい人もいれば、料理人として技術を追求したい人もいるでしょう。それぞれの想いを尊重しながら、個々の資質を見極め、目標設定することが大切です。
 
同時に、料理人の育成には「準備」が大切です。個々の資質を見極め、目標の設定が出来たら、計画を立て実行していきます。
そして、教わる側も「準備」が大切です。自分がやるべきことを後回しにして、自ら調べることなくただ漠然と質問したのでは、それは無駄になってしまいかねません。
教える先輩の時間も無駄にならないよう、教わる側も準備万端で臨む必要があります。


たくさんチャレンジして、仕事を楽しむ。壁にぶつかったときは、誰かに相談を




若いうちはいろいろなことにチャレンジして、仕事を楽しんでください。
楽しく仕事をした上での大変さ、苦しさも知らないと料理の本当の楽しさは味わえません。
時には、壁にぶつかることが必ずあります。それは、人間関係かも知れないし、技術的なことかもしれません。そんな時は壁を自分一人で壊そうとしなくても良いのです。信頼できる上司や友人に相談をしてみてください。すると、違った視点の気づきが得られ、自分には見えなかった「裂け目」が見つかります。
その「裂け目」をすり抜けてしまえば、壁を乗り越えたのと同じです。毎日当たり前のように繰り返す仕事でも、興味と向上心を持ちながら取り組む姿勢で研鑽を重ねる事が大切です。




今回は、ロイヤルパークホテル(東京・日本橋)の松山総料理長にお話を伺いました。ホテルの調理師として長年ご活躍され、総料理長となった今もなお熱く仕事に打ち込まれる姿、そして、後輩たちを想う眼差しに感銘を受けました。
調理師を目指す学生のみなさんにとっても、大先輩の貴重なお話は大変参考になったのではないでしょうか?
今後の人生において役立つお話もたくさんあったと思います。何かの折には、読み返していただければ幸いです。