若手社員の教育育成に力を入れている飲食店は多々あります。
今回は台湾の人気レストランで、日本でも数多く出店している「鼎泰豐(ディンタイフォン)」の国内1号店出店時から深く関わっている顧問と4名の社員にインタビュー。
本場台湾での研修内容や実際に受講してみた率直な感想をはじめ、日本との調理環境の違いなどについて聞いてみました。
【お話を伺ったのは・・・】
株式会社アール・ティー・コーポレーション
髙島屋の完全子会社として1986年設立。1996年、世界10大レストランである台湾の人気レストラン「鼎泰豐」の海外1号店を、新宿タカシマヤタイムズスクエアにオープン。その後もほぼ毎年のペースで新規出店を継続し現在、全国30店舗を構える。(2025年8月現在)
また、「鼎泰豐」を始めとする外食事業だけでなく、給食事業や製造事業など幅広く展開している。
≪鼎泰豐について≫
小籠包が看板メニューの点心料理店。1958年に台湾台北市で食用油を取り扱う油問屋として創業し、1972年に小籠包を始めとする点心料理の販売をスタート。今では13カ国に約160店舗を展開し、本国台湾の店舗はミシュランガイド台湾版にて8年連続で「ビブグルマン」に選出される(2018年~2025年)など、世界が認めるレストランへ。
【インタビューにご協力いただいた方】
●鼎泰豐顧問 田中さん
鼎泰豐国内1号店出店時から現在まで事業拡大を推進
※画像左から
●吉元 聡さん(2015年新卒入社)新宿調理師専門学校出身
入社7年目で調理長へ。現在は「東京スカイツリータウン・ソラマチ店」の調理長として活躍中
●海老澤 翔さん(2021年新卒入社)日本菓子専門学校出身
鼎泰豐には学生時代からアルバイト勤務。入社4年目で調理リーダーとなる
●淵上 珠妃さん(2024年中途入社)
前職はイタリアンで調理を経験。入社当時は調理を担当していたが、本人の希望で現在はホール担当として活躍中
●村上 舞さん(2023年新卒入社)香川調理製菓専門学校出身
2025年5月にオープンした新店「池袋東口S店」のキッチン担当
本場・台湾で約2週間の研修を実施。お客さまへも自ら調理した料理を提供する
1996年の国内1号店をオープンして以来、ほぼ毎年1店舗ずつ新規出店を継続している鼎泰豐。店舗数が増えるにつれて、調理する人材の育成の強化や提供する料理の品質向上が大きな課題になってきたことから、教育研修にも注力するようになっていきました。
「鼎泰豐では現在、台湾から指導員を迎え入れて教育指導する国内研修と、台湾の本店に派遣して最長2週間の実地研修を行う海外研修の2つの軸で教育を行っています」と語るのは、鼎泰豐国内1号店オープン時から運営に関わっている顧問の田中さん。
台湾研修に参加する条件として、小籠包・点心という熟練の職人技の基礎を身につけるために、最低2年以上国内で経験を積むこと。なおかつ指導員や調理長などからの推薦を受けること。
そうして選ばれたスタッフは台湾の店舗で、現地で活躍する多くの料理人・点心師・サービス員と一緒に研修に励むことになります。
「国内の店舗とは違い、調理場には数十人規模の点心師・調理スタッフが『小籠包・点心』『それ以外の料理』に完全分業されています。また段違いの大火力をはじめ、調理環境も大きく異なります。その中で『美しく折られた18のひだ』『スープや具が透けてみえるほど薄い手作りの皮』『その皮の中にこめた旨味が凝縮した肉汁』など、ハイレベルな調理技術でスピーディーかつ大量に包み上げたり、調理することが求められます」(田中さん)
そこで調理をした料理が総調理長などに認められれば、そのままお客様に提供されることもあるそうです。
30年近い歴史を通じて日本の調理レベルも確実に進化している
「国内1号店がオープンした創業期は台湾と比較した際、調理技術や品質、店舗運営含めて大きなレベルの違いがありました。当時は台湾のオーナーからも厳しい指摘や指導を受けていましたね」と当時の様子を語る田中さん。
それから約30年が経ち、今では見違えるほど日本のレベルも向上したそうです。
「今春、たまたま日本でチャーハンを食べたオーナーが『美味しい』とコメントするほど、お墨付きをもらえました(笑)」
現在は日本専門の台湾指導員が10名おり、その内2名が国内に常駐して巡回指導を行っています。毎年秋には約2カ月かけて国内全店舗の調理・サービスレベルをチェックするなど、外資系料理店としては随一の教育指導力を発揮しています。
「鼎泰豐の根幹は小籠包や点心づくりになります。点心師は奥の深い世界であるため、今後も国内の技術力を底上げして日本の点心師を育成していくことに注力していきます。それと同時に新規出店を継続していくことで、より多くのお客様に『本場の味』を提供していきたいですね」(田中さん)
台湾研修に参加した率直な感想は?中堅~若手社員が語る
実際に台湾研修に参加した社員は、現場でどのように感じて、何を学んだのでしょうか?
今回インタビューにご協力いただいた4名中、3名がすでに参加しているので、まずは各々の感想を話してもらいました。
吉元さん
「私が参加したのは6年前でしたがその当時、キッチンには常時40~50人が勤務していて、まずその規模に圧倒されました。それ以上に日本とのギャップを感じたのは『雰囲気』。地元の方や観光客など常時行列が絶えず、200分待ちの状況でスピーディーに大量の調理をしなければならいため、まさに調理場は戦場と化していました。
また特に調理長など役職につかれている方の調理のスピードやクオリティーが圧倒的で、間近で実感できたことが今の成長に役立っていると思います」
海老澤さん
「私は点心ではなく、チャーハンの調理などの『鍋』担当として昨年、台湾研修に参加しました。まず感じたのは、日本とは火力が全く違うこと。少しでも調理スピードが遅れると、すぐ焦げてしまい、日本で学んだ調理技術が生かせないことも多くありました。
そこで一旦プライドを捨ててゼロから学ぶ姿勢に気持ちを切り替え、高火力でスピーディーにチャーハンをつくる技術を必死で学びました。その結果、卵を混ぜるタイミングなど、細かい技術の感覚をつかむことができたと思っています」
村上さん
「私は今年参加しました。先輩たちが話しているように調理場で働く人数も、スピード感も日本とは全く違います。調理長から直々に指導を受けることもできたので、限られた時間の中で、できる限り本場の技術を盗んで覚えたいと意気込み、動画を見ながら手元の技術を学ぶことに集中。
特に小籠包を包む技術は難しいですが、褒められることも多く、嬉しかったです。また、グループで研修に参加していることもあり、周りの仲間たちと一緒に学ぶ安心感や心強さがありました」
そして、現時点で台湾研修に参加したことがない淵上さんも、ホールの立場で参加することを目指しているそうです。
淵上さん
「もともと調理も経験しているので、実は今も点心づくりの練習もしています。ただ私としてはホールの仕事を続けたいと思っているので、台湾研修に参加した際には現地の接客や店舗運営ノウハウを学びたいと思っています」
2025年台湾研修では
複数店舗を見学・試食後、ホールとキッチンに分かれて近い距離で技術をご指導いただけたとのこと。
また、日本だけでなく全世界の鼎泰豐が集まる約3,000人規模の大パーティーでは、有名アーティストのパフォーマンスなど様々なイベントが開催。広い会場の中で「日本メンバーへはVIP席が用意されていた」と、初参加メンバーからは驚きの声も上がったそうです。
国内でもしっかり研修。年々育成環境が充実している
本場・台湾ならではの圧倒的スケールや高度な技術、そして多くのお客様からの大量のオーダーをさばくスピードなどを現場で直接体感したり、学ぶことでその後、日本でのステップアップに役立っているそうです。
一方、国内における育成環境も年々充実しているといいます。
「入社後約2か月間の新入社員研修をはじめ、毎年台湾の指導員が全店舗を巡回して料理の品質をチェックすることで、調理・サービスなど店舗運営に必要な様々な技術が数値化されて公正な評価を受けることができます。それによって、よりハイレベルな調理技術を習得するための明確な目標が見いだせて、日々のモチベーションに繋がっています」(吉元さん)
今後ご入社いただく方に対しては「食べることが好きで、探究心を持って小籠包・点心をはじめ、奥の深い料理の世界を追及したい方に仲間になってほしい」とのメッセージが寄せられました。