株式会社ホテルオークラ福岡トップインタビュー

2025.02.23 5
「後輩が成長していく姿を見ることが、何よりのモチベーションになります」

 柔和な笑顔でそう語るのは、2024年6月にホテルオークラ福岡の取締役総料理長に就任した西本裕治氏。

今回は、ホテルオークラ東京を経て福岡の地に根を下ろし、料理人としての道を切り拓いてきた西本氏に、未来の料理人へ向けたメッセージを語っていただきました。

 
プロフィール ◆
株式会社ホテルオークラ福岡 取締役総料理長
西本裕治(にしもとゆうじ)氏


長崎県出身。1984年ホテルオークラ東京入社。調理部で宴会調理、レストランの洋食調理部門を担当。1999 年ホテルオークラ福岡へ転籍し、レストラン部門のシェフとしてホテルオークラ伝統の味を福岡へ継承する。2012年にホテルオークラ JR ハウステンボスへ出向し、2014年に総料理長、2016年に取締役総料理長、2018年にホテルオークラ福岡へ帰任後、調理部長を経て、2024年6月ホテルオークラ福岡 取締役総料理長に就任。
 
 

1. 料理の道に進んだきっかけ

「最初から料理人に強い憧れがあったわけではないんです。父が長崎で小さな飲食店を営んでいて、自然と料理の世界に触れる機会がありました。手伝いながら、“こういう道もあるのかな”と思ったのがきっかけですね。

 高校卒業後、料理を学ぶなら東京だろうと考え、ホテルオークラ東京に入社しました。寮生活も懐かしいですね。寮から職場まで片道1時間半。始発で出勤して、遅くまで働く日々でしたが、若かったから乗り切れたのだと思います。そんな環境で、仲間や先輩に恵まれながら、仕事の厳しさと面白さを学んでいきました」
 
 

2. 東京での修行時代

「最初の配属は宴会部門で、二年目に迎賓館『三菱開東閣』に異動し4年ほど経験を積みました。その後オークラ東京に戻り、コンチネンタル料理を提供するレストラン『オーキッド』で8年間勤務。当時は定期的に、海外から各国のシェフを招聘してイベントをしていたんです。刺激の多い環境で、料理人としての視野が大きく広がった時期でした。
 

私自身、最初から夢や目標があったわけではなく、“もっと学ぼう”という気持ちが生まれてきたのは、この道に入ってからのこと。性格的にも一人で突き進むより、仲間と一緒に楽しくやるのが好きでした。海外に行くチャンスもありましたが、そのときは“ここでも十分に腕を磨ける”と思っていました。今になってみると、行っても良かったかな?とも思いますが、何より仲間や先輩に恵まれたからこそ、続けてくることができたと感謝しています」
 
 

3. 退路を断って福岡へ 新たな環境での挑戦

「1999年、ホテルオークラ福岡の開業を機に、九州へ戻ることを決意しました。東京で15年働き、そろそろ新しい挑戦をしたいと思っていたんです。ところが東京からの出向者枠が埋まっていたため、やむなくホテルオークラ東京を退職。新たにできた㈱ホテルオークラ福岡へ転籍し、一からスタートを切ることになりました。

 
 驚いたのは、ホテルオークラ福岡に入社したとたん、シェフを任されたことです。前職の東京では主任、ホット場の一スタッフだったので、管理者としてチームをまとめるのは初めての経験でした。若手スタッフが中心のチームをゼロから作り上げる苦労はありながらも、みんなでトライアンドエラーを繰り返してオープンを迎え、軌道に乗せたときの達成感は大きかったです。
 
 もうひとつの転機は、福岡に来て10年ほど経った頃、技術応援の提携で6年半ハウステンボスに出向したことです。知らない環境で孤軍奮闘、はじめは受け入れてもらえないこともありましたが、料理人同士だからこそ愚直に美味しいものを追求し、お客様に喜ばれる料理を提供すれば、人はついてきてくれることを学びました」
 
 

4. シェフとしての信念 美味しさとは何か?

「料理人にとって、一番大事なのは“美味しいものを作ること”です。ただ味が良いだけでは不十分。盛り付けや色合いなどの美しさ、提供のタイミング、温度など、すべてが揃って初めて“美味しい”と言えます。お客様の期待値も年々高くなっているので、常に学び研鑽する姿勢は欠かせません。

 
また、料理に必要なのは、相手への思いやり。最近はアレルギー対応や食の多様化も進み、料理人に求められる視点が広がっています。日頃からスタッフには、挨拶や返事、身だしなみ、チームワークの重要性を伝えていますが、思いやりの基本を大切にすることは、すべて美味しい料理を作ることに繋がると思っています」
 
 

5. ビジョンと未来の仲間へのメッセージ

「今の目標は、次世代の育成です。総料理長になってからは、若手だけでなく中堅スタッフのモチベーション向上にも力を入れ、管理職のユニフォームを一新しました。セクションごとに違いはありますが、世代交代が徐々に進み、若手が意見を出しやすい環境になってきていると感じています。今後も、スタッフが伸び伸びと活躍できる組織をつくり、より良いチームを育てていきたいと思います。
 
 私がずっと大切にしている言葉に“継続は力なり”があります。もう少し頑張れば次のステージに行ける、というところで辞めてしまうのは、とてももったいないこと。迷ったらぜひ相談してください。一緒に前に進む道を見つけられるよう、力になりたいと思っています。
 
福岡のような地方都市は東京ほどの規模感はありませんが、上を目指しやすく、若いうちから活躍できるチャンスに溢れています。福岡の地で、一緒に成長していける仲間を待っています」

 


☆☆採用担当者のコメント☆☆
歴代の総料理長の中で、ホテルオークラ福岡の創業から地道に経験を積み、総料理長に就任したのは西本ただ一人。現場を深く理解し、後輩を思いやる人柄が魅力の、人間味あふれるリーダーです。インターンシップの受け入れにも積極的で、多い時はキッチンが人で溢れるほど。実際の職場の雰囲気を肌で感じられる機会なので、ぜひエントリーしてみてください!

関連記事

2024.03.01 10
全   ホテルオークラ福岡の調理場には、ホテルオークラ東京開業当時の総料理長・小野正吉氏の言葉が掲げられています。これは単なる言葉ではなく、同ホテルに脈々と受け継がれる料理の精神。今回は前ホテルオークラ福岡の谷内雅夫総料理長に、料理の心についてお話を伺いました。   [②ムッシュ.png] “調理部門のフィロソフィー(理念)について ”  これはもう「料理は心」この一言につきます。いろんな意味で心のこもった料理であるためには、仕込みの時点から心を込めないといけない。人参の皮をむくときも、見た目や厚みに気を配り、単なる作業にしないこと。これは料理だけでなく、すべての仕事に言えることだと思います。    “料理人としての原点について ”  25歳の時、社内制度を利用してオランダのホテルオークラに修業に行きました。そのときお世話になったシェフに「フランス料理とは何か」を徹して教えていただいたことが、今の私の礎になっています。中でも深く根付いているのは「素材が主役だ」というシェフの口癖。おいしい料理は食材との対話から生まれることを教わりました。   たとえば、肉を焼くときは、どのタイミングでひっくり返せばよいかを肉に問いかけるんです。 今か?まだか? 肉は答えてくれないけれども、そうしているうちにいろんなことがわかるようになる。ただ漠然とこなすだけではだめですよ。気持ちを入れながら経験を積むことが大切です。    [taniuchisan (16).jpg] “美味しい料理に辿り着くために ” 「食材が主役」ですから、食材選びには常にアンテナを張り巡らせています。同じ金額でいかにクオリティの高いものを仕入れるか。食材さがしをおざなりにして、おいしい料理は作れません。私も商談会に出向いて生産者とつながるなど、良いものに出会うために行動しています。ひと手間、ふた手間かけた先に、おいしい食材・美味しい料理との出会いがあるのです。いつも尽力して下さる生産者のみなさんには本当に感謝しています。  [taniuchisan (13).jpg] “料理人を目指す人たちへ ”  まずは日々の仕事に真剣に向き合い、覚える努力、忘れない努力をしていきましょう。続けていけば先輩や上司から信頼され、次のステップに進むことができます。楽しさを味わうには、一生懸命やらないとね。環境に甘えず、自分で自分を鼓舞する強さ、成長しようという発条(バネ)を持っていただきたいと思います。     ホテルオークラ福岡は今年で25周年。私もまだまだ、より良くの変化に向けて、日々動いています。数年前からYouTube番組をはじめましたし、お客様からのリクエストを受けて、メニュー構成から調理・料理提供まですべて私自身が担当するプライベートレストラン「マサオズルーム」も不定期開催しています。若い料理人からよい刺激をいただきながら、私も進化を続けていく所存です。  みなさんの活躍にも、大いに期待しています。 [taniuchisan (10).jpg]