現在9店舗を展開し、関西の郊外型パン屋を代表する株式会社サニーサイド。
毎年のように新店舗を出す多店舗展開をはじめたのは2代目の和気社長。
店長が務まるまで人を育て、独立者を支援する人気パン企業の社長に、独立に必要なことについてお話しいただきました。
独立するためには何が必要か
独立しようと決めて最初にぶつかる大きな壁は開店に必要な準備金、つまり初期投資です。まずは自分が開きたいと思う店舗を実現する初期投資を用意しなくてはいけません。そして、「人」「もの」「お金」の管理ができる力を身につけておいてください。それらが不足している状態では成功しないと私は考えています。
当社の場合は入社してからのキャリアステップに従って、まずはチーフを目指し、つぎに副店長、店長と昇格していきます。店長になると店舗を運営する側に立ち、スタッフの採用や管理、お客様対応などさまざまなことが任されます。独立志望者には、それら全部ができるようになってから独立したほうがいいとアドバイスしています。やる気と実力があれば、4〜5年で店長になる人もいます。
また、店舗の立ち上げに一から携わることは、独立志望者にとっては願ってもない経験になります。例えば、パン職人・パート・アルバイト合わせて70名規模の採用面接に立ち会ったり、店舗のレイアウト配置を考えることなどを経験すれば、夫婦2人のパン屋を開くことはとてもラクに感じるでしょう。
ただ、規模に関わらずお店が成功するかしないかの差は、最初にライフプランを設計しているかどうかだと思います。何歳で独立して、結婚して、子供を産んで、家を買ってとしっかり計画して独立する人は成功していますが、行き当たりばったりで「パン屋をしたい」という気持ちだけ強い人はうまくいかない傾向にありますね。
どんなスキルを身につけるべきか
生地のまるめから発酵、仕上げ、焼きまで、パンづくりの基本技術を一から習得することは間違いなく重要です。当社の場合、パンづくりの各ポジションをローテーションでまわっていきます。2年も経てば全ポジションを経験できますが、遅い人は1年経っても一つのポジションのまま。この世界は実力主義なので、仕事をこなす能力や実績が評価されます。それがモチベーションになってがんばる人は独立が早いですね。もし、どのパンにも同じ冷凍生地を使っているパン屋に就職すれば、パン職人としての経験を積むことは難しいと言えるでしょう。
パン職人希望者のなかにはコミュニケーションをとることが苦手な人もいますが、厨房が一つとなってチームワークをはかれる程度のコミュニケーション力は必要です。スタッフのなかには専門学校で学んでパンづくりに興味がある人もいれば、4年制大学を卒業した未経験者もいる。そして、男女における仕事の区別はありません。さまざまな人がいるチームをまとめて気配りができる人は昇格が早く、独立してもうまくいく傾向があります。独立すればお客様と直接対応することが多くなるのですから、コミュニケーション力は高いほうがいいですね。
理想の開店に欠かせない勉強
独立志望者は、「自分はこんなお店をもちたい」というイメージをもってください。最近のみなさんはパン屋のことを知らなすぎますね。人気店や有名店のパンを食べてみたい、知りたいという欲求があまりないようです。就職したいお店に応募する際は、そのお店のことや商品を気に入っているかどうかを面接でみられますよ。お店に一度も行ったことがない、パンを食べたことがないというのでは熱意を感じることはできません。実際、当社の独立者とそういう会話になると「そのお店に行ったことがある」という話になり、よく勉強しているなと感じます。
人気店だけでなく、気になるお店があれば直接足を運んでどうして人気があるのかないのかを分析し、「売れるためにはこうしたらいい」などと自分なりに考えることが大切。不便な場所であっても行列ができる人気店があるなら、わざわざ買いに来る理由を分析して、自分の働くお店や思い描くお店に採り入れてみてください。
私が参考にしたお店は数えきれませんが、当時関東には当たり前にあった駐車場併設の郊外店が関西にはありませんでした。「どうして関西にはないのか」と疑問に思ったのがきっかけで、建築費・家賃・スタッフ数・売上げ目標など手探り状態のなかで、駐車場とカフェスペース付きの2号店を箕面にオープン。それが当たって多店舗展開をスタートすることになりました。
サニーサイドから独立した実例
私が父から当社を継いで7〜8年になりますが、その間に5名が独立しました。物件探しや業者紹介など、自分の経験から教えられるアドバイスはできるだけしています。なかでも池田市の郊外型店「グルペット」は大ブレイクしていますね。種類が多く手づくりにこだわるため週4日だけの営業ですが、行列が絶えない人気店になりました。「グルペット」を開いた独立者は、箕面・宝塚・高槻の3店舗のオープニングを経験しています。一緒に物件を見に行くと、いつも自分が店長をやりたいと手を挙げていましたね。オープニングはとても大変な仕事ですが、そのときの経験が力になっているのだと思います。初期投資も自分で貯めたと聞いています。
パン職人としての道は、「社員として生活できればいい人」「店長を目指す人」「独立する人」の3つに大きくわかれます。独立にはリスクがあるので、企業の社員や店長でいることももちろん選択肢の一つ。ただ、独立する人にはパン職人を育ててほしいと思っています。定着して勤めてもらえたら自分がラクになり、2店舗目という道も見えてきますし、何よりおいしいパンをつくる技術は多くの職人に継いでいってほしいです。
材料や機材が高くなって初期投資を準備することが難しいいま、独立のハードルは高くなっていると思いますが、多種多様な道があるのであきらめないでほしいと思っています。当社の独立者たちは困ったことがあるといまも私に相談してくれますよ。独立について相談できる経験者や先輩を見つけることも大事なことだと思いますね。