料理人として腕を磨くうえで欠かせないのが“食材の知識”。
特に魚は、鮮度や旬、扱い方によって味が大きく変わる繊細な食材です。
今回は、圧倒的な鮮度を強みにした“魚のテーマパーク”で注目を集める【魚太郎株式会社】に密着! 「新鮮だから美味しい!しかもお値打ち!」と、おさかなファンを急増させている仕組み、独自の仕入れルートについて紹介します。
お話を伺ったのは……
勝木誠さん:人事部人事担当。以前は大手コーヒーチェーンでエリアマネージャーなどを経験。2022年魚太郎へ入社。
三宅慎伍さん:大府店店長。以前は電気工事士。大の魚好きで、競り人に憧れて2018年魚太郎へ入社。仕入れ担当を経て、店長へ昇格。
【魚太郎株式会社とは】
愛知県知多半島南部・美浜町の海の前に本社を構え、鮮魚販売や飲食施設を展開する海産物の専門店。人口約2万人の町にありながら、年間120万人ものお客様が訪れる人気のスポットです。伊勢湾・三河湾の5つの漁港で「競り権」を持ち、仕入れから販売までをすべて自社で行えることが最大の強み。競りから2時間以内のエリアに7拠点を展開し、獲れたての魚をお値打ちにお客様に届ける仕組みが確立されています。
水揚げから店頭へ最速ルート!「高鮮度」と「豊富な魚種」を実現
一般的に、水揚げされた魚は漁港で「競り」にかけられ、仲買業者を通じて各地の卸売市場へ運ばれます。スーパーなどの店頭に並ぶまでには通常1日以上かかるため、その間に鮮度が落ち、一部の魚は刺身ではなく干物や加工品に回されることも少なくありません。
しかし、魚太郎は自社で競りに参加し、落札した魚を最短15分で店頭に並べることができます。また、地元漁師と直接契約し、その日の水揚げをそのまま仕入れる独自ルートも確保。劣化が早く干物向きとされるカマスなども、鮮度の高い状態で寿司ネタや刺身として提供しています。
水揚げされたばかりの魚介類をはじめ、約400種もの海産物がずらりと並ぶ直営市場の景色は圧巻!「鮮度」と「魚種の豊富さ」を両立し、多彩な魚の魅力を伝えています。
「競り」の世界と求められるスキル
・「競り」とは?
漁港で水揚げされた魚を購入する際の交渉を「競り」と言います。参加者が「10,000円!」「12,000円!」というように希望の金額を提示し、一番高い値をつけた人が落札します。競りに参加するには、その漁港に「競り権」を持っていることが絶対条件。魚太郎はもともと仲買業をしていたため、5つの漁港に権利を有していますが、新たに競りに加わるにはさまざまな要件があり、そのハードルは高いものとなっています。
競り人に求められるスキルは多岐にわたり、魚の種類や旬を知るのはもちろんのこと、その魚が全国でどのような価格で取引されているのか、相場観を持つことも重要です。魚の価値は、漁獲量や魚の質などで日々変動します。漁師さんが水揚げして、競りにかけられて数秒、ここで初めて値段が決まるため、一瞬たりとも気を抜けません。日頃は仲のいい仲買人同士も、競りが始まればみんなライバル。希望の魚をいかに安く競り落とすか、日々大勝負が繰り広げられます。
・目利きの力の磨き方
また、競りで勝ち抜くためには、“目利き力”を磨くことが不可欠です。魚の品質を見極めるために、目の透明度やエラの色、触ったときの弾力感などを細かく観察し、鮮度や状態を判断します。こうした視覚・触覚による見極めは、競りの場で一瞬の判断を求められるため、非常に重要です。
さらに、目利きの精度を高めるために、競り落とした魚を実際に食べ、身の締まり具合や脂の乗り方、味の違いを確かめることで経験を積んでいきます。こうした実践を繰り返すことで、魚の状態と味の関係を深く理解し、競りの場で瞬時に価値を判断できる力を養っていきます。
「先輩から『やってみるか』と魚太郎のプレートが付いた帽子を渡され、初めて競りに参加した時は、ワクワクが止まりませんでした。良い魚にはライバルも多く、見立てを誤れば質の悪い魚がお客様のもとへ届いてしまう。その責任の重さにプレッシャーを感じますが、最高の魚を競り落とせた瞬間は、思わず歓喜の声があがるほどの喜びがあります」(三宅さん)
海の恵みを余すことなく活かす ~ 魚太郎の挑戦 ~
魚太郎のメインの仕入れ先である片名漁港と豊浜漁港は、愛知県随一の漁獲量を誇る漁港で、全国的にも珍しい「朝市」と「夕市」があります。一日二回開催されるのは、時間帯によって水揚げされる魚種が異なるためです。「数が少ない」などの理由で市場に出ない魚も多く存在しますが、魚太郎ではそのような魚も競り落とし、自社の寿司店や食堂で提供しています。また、食堂やバーベキュー場を併設することで、仕入れた魚が常に循環する仕組みを構築しています。
さらに魚太郎では、天然魚の減少という環境課題への取り組みとして、新たに養殖事業にも乗り出しました。まずは海苔の養殖からスタート。将来的には、魚粉ではなく海苔を餌にする魚の養殖にも挑戦し、持続可能な水産業の未来を支えることを目標にしています。
学生さんへのメッセージ
いかがでしたか? 魚の仕入れや流通、競りについてなど、日頃あまり触れることのない世界を知る機会になったのではないでしょうか。食材の背景を知ることで、料理や仕事への視点にも広がりが生まれると思います。
最後に、学生のみなさんへのメッセージです。
「鮮度抜群・多種多様な魚を扱い、お客様の『美味しい!』という笑顔をダイレクトに感じられるやりがいは格別です。また、寿司を握る技術はもちろん、魚の価値を見極めるスキルや提供の工夫など、新たな食の楽しみを発見できる面白さもあります。仕事はつらいものじゃなくて、楽しいもの。もし、少しでも魚太郎に興味が湧いたなら、一度お店を訪れて、その世界をのぞいてみてくださいね!」