人手不足や高齢化が進む建設業界において、この課題にどう立ち向かうかが、今後の企業存続を左右すると言っても過言ではありません。
今回は、先代から事業を引き継いだ若手社長を先頭に、会社の若返りに真正面から取り組んでいる建設会社をピックアップ! 若手社員の声と共に、変わりゆく建設会社の「今」を紹介します。
お話を伺ったのは……
株式会社田中建興(本社所在地:大阪府八尾市)1981年創業。土木・建築の両輪で、地域のインフラ整備に貢献する総合建設会社。他社にはない特殊工法を主軸とした技術力の高さが特徴です。社員の健康と働きやすさを重視した環境整備や、次世代を担う人材の育成に全力投球中。
写真左から:田村さん、川内さん、蘇(いける)社長、西村さん
「リアルな現場の空気」を伝えるSNSの取り組み
田中建興では、「会社の雰囲気や価値観を発信する手段」として、SNSの活用に力を入れています。社員が現場で撮影した写真やエピソードを社長に送り、社長がそれを投稿するスタイルで、飾らない日常を発信。どんな人が、どんな空気の中で働いているのかを“見える化”することで、仕事の楽しさや職場の温度感が自然と伝わるように工夫されています。
先輩社員・西村さん(30代・施工管理)「以前、解体の現場で、若手のメンバーがブロック塀をハンマーで壊していたんです。その風景を動画で撮って社長に送ったら、『おもしろいやん!』ってすぐアップされて、結果、めちゃくちゃバズリました(笑)。あれはなかなか印象的でしたね。『建設の現場って意外と楽しそうやな』って思ってもらえたら嬉しいです」
先輩社員・田村さん(20代・施工管理)「現場の中で『これ映えるかも』と感じることがあれば、写真を撮って送っています。建設の仕事は“怖そう”など、古いイメージを持たれがちなので、現場の空気や楽しさが少しでも伝わるなら、発信する意味はあると思います」
「コスパよりも育成」――覚悟をもって教える姿勢
もうひとつ、同社が力を入れているのは、「コストパフォーマンスよりも、人を育てることを重視する」という経営方針。現場は常に予算や納期との戦いですが、時間がかかっても若手に任せることで、「ひとつの現場をやりきる経験」が蓄積されることを重視しています。
短期的な利益よりも、10年後にしっかり現場を任せられる人材が育っていること―― それこそが、持続可能な企業運営につながると考えているのです。
田村さん
「初めて一人で現場を任されたときは、書類の意味もルールもちんぷんかんぷん。でも、やっていくうちに“これは自分の現場だ”という責任感が芽生えてきました。作業しやすいよう、自腹で自分専用の道具を揃えることもしましたが、ある時、社長や先輩たちが『それなら会社でちゃんと支援しよう』と動いてくれて。今では必要な道具を、会社で購入してもらえるようになりました。“いい仕事がしたい”という気持ちを汲み取ってもらえたことが、すごく嬉しかったです」
西村さん
「田村君は、わからないことはとことん質問してくるんです。自分で勉強するし、吸収力もすごいから、教える側も気が抜けません。最近は、社長が本気で若返りや育成に取り組んでいるのを見て、ベテラン社員たちの意識もかなり変わってきました。“教える側も変わらなあかん”って、動いてくれているのが伝わってくる。それって、すごいことだと思います」
また、変化の波が起きているのは、施工管理の現場だけではありません。ある中途入社の女性社員(事務職)は異業種からの転職組ですが、チャレンジを応援する社風に背を押され、CADも扱えるように。現在は土木施工管理技士の資格取得を目指して勉強中です。
川内 果穂さん(総務部 建設ディレクター)「CADの勉強をはじめてからは、現場日報の内容が理解できるようになり、わかることが増える楽しさを日々実感しています。現場の社員さんたちは、元気で明るくて、話すとめちゃくちゃ優しい笑)。現場見学に行った際は、仕事の細かさや正確さ、スピード感がすごくて、以前の何倍も『すごい!』と尊敬するようになりました。もっと皆さんと話せたらいいなと思っているので、お昼ごはんを事務所で食べてくれる人が増えたらうれしいです!」
遊び心のある制度で、現場にゆとりと笑顔を
社員のモチベーションや心の余裕を大切にしたい―― そんな想いから、同社ではユニークな制度づくりも行っています。その一つが「明日から頑張ります休暇」。名前の通り、「ちょっと休んでリセットして、明日からまた頑張る」という前向きな休暇制度です。
西村さん 「岡山への出張前に、初めてこの休暇を使いました。申請書には“岡山頑張ります休暇”って書いて出したら、笑ってもらえて。制度の名前もちょっと気合いが入る感じで、気に入っています。たとえば休暇のネーミングが“二日酔い休暇”だったら、ちょっとネガティブに感じるかもしれない。“頑張ります”ってついているだけで、前向きな印象になります。休み明けに“今日から頑張れよ!”という声かけもできて、うちの会社らしい制度だと思います」
田中建興の「若返り」は、単なる世代交代ではなく、ひとり一人の挑戦や成長を支える“環境づくり”そのもの。変化を恐れず、時に笑い、時に本気でぶつかりあっていく会社のあり方自体が、これからの建設業界の希望だと思います。
「就職活動って大変そう」と思っている方も、まずは「楽しそうだな」という感覚から、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。